2016年2月、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が独自の仮想通貨の開発を進めていることが明らかになりました。
すでに新聞・ニュースなどで報じられたことは知っていても、
なぜ銀行が仮想通貨を発行するのか?
他の決済サービスとは何が違うのか?
などの疑問を持った方も多いのではないでしょうか。
この記事では、MUFGコインの特徴や利用するメリット・デメリット、他の決済サービスとの違いについて、詳しく解説していきます。
この記事を読めば、あなたがMUFGコインに関して疑問に思っていることが解消されるでしょう。
MUFGコインとは
MUFGコインとは、世界規模の金融グループである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がブロックチェーン技術を活用して開発している仮想通貨です。
2016年2月、新聞紙上で独自の仮想通貨の開発を進めていることが報じられたことがきっかけとなり、世間の注目を集めました。
「仮想通貨元年」として仮想通貨が注目され始めたのは2017年ですから、MUFG内ではそれ以前にMUFGコインに関する検討が始まっていたと考えられます。
MUFGコインは、スマートフォンにダウンロードしたアプリを通じて、利用者間の送金や加盟店での買い物などの代金支払いに使えるようになる予定です。
大規模な管理システムがいらないブロックチェーン技術を用いることで、いつでも瞬時に送金でき、手数料も大幅に引き下げられるなどの利点があります。
MUFGコインの特徴
画像引用元: https://www.mufg.jp/ir/presentation/backnumber/pdf/slides170911.pdfhttps://bitflyer.com/ja-jp/
MUFGコインは、スマートフォンで簡単に支払い・送金ができるだけでなく、他の仮想通貨にはない特徴があります。
特に大きな特徴は、以下の2つです。
1コイン=約1円に価値を調整
MUFGコインは、日本円にペッグされたステーブルコインとして、「1コイン=約1円」と価格が調整されます。
ステーブルコインとは、法定通貨を担保にして発行することで、その通貨と同等の価値を維持する仕組みをもった仮想通貨のことです。
海外では、米ドルにペッグされた仮想通貨「テザー(USDT)」が有名ですが、流通量と同等のUSドルが担保されていないとの噂もあり、ステーブルコインとしての信頼が揺らいでいます。
しかし、世界的金融機関のMUFGが発行したステーブルコインであれば、信頼性が高く、一般消費者も安心して利用できるでしょう。
高速決済化を実現
MUFGコインは、ブロックチェーン技術を応用し、処理量が従来のカード決済システムの10倍超となる毎秒100万件以上の「高速決済システム」を備えています。
世界規模のクレジットカードでVISAカードでさえも、1秒で1万件に届かない処理能力しか有していないことから、MUFGの開発にかける本気度が伺えます。
MUFGコインの決済システムは、米国のアカマイ・テクノロジー社との共同開発で、世界3,800ヶ所に置かれた同社の超高性能サーバー上で処理を行います。
サーバー同士でブロックチェーンを形成することによって大容量のデータ処理を可能にし、独自プログラムを使って高速決済化を実現しました。
MUFGがこうしたシステム開発に着手した、近い将来、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」が普及し、小口の資金決済が飛躍的に増えることを想定しています。
MUFGコインは、コンビニや飲食店での支払いのほか、割り勘など個人間の送金で利用されることを目指しています。
- 1コイン=約1円に価値を調整
- 毎秒100万件以上の高速決済化を実現
MUFGコインのメリット
MUFGコインが実用化された場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
利用者側のメリットと、MUFG側のメリットをそれぞれ見てみましょう。
利用者側のメリット
MUFGコインのアプリを使えば、いちいち銀行やATMに行かなくてもスマートフォンから簡単にお金を送金することができます。
また、決済システムにはブロックチェーンを使っているため、銀行の営業時間などを気にすることなく、24時間365日送金可能です。
海外でもMUFGコインが使えるようになれば、海外旅行に行った時に現地で両替する必要もなく、高い両替手数料を払わなくてすむようになります。
MUFG側のメリット
MUFGコインの普及が進めば、現金を取り扱うコストの削減になります。
将来的には、ATMの台数を減らしたり、来店者数の少ない店舗を統廃合することによって経費を削減し、経営を効率化できます。
またMUFGは、MUFGコインの導入によって利用者の情報を取得できます。
どのような年齢・性別の利用者が多いのか、どの地域でよく利用されているのかなど、マーケティングに重要なデータを把握することができます。
こうしたデータを利用した、新たなビジネスを展開することも可能になります。
MUFGコインのデメリット
では、MUFGコインの実用化によって、どのようなメリットがあるのでしょうか。
利用者側のデメリットと、MUFG側のデメリットをそれぞれ見てみましょう。
利用者側のデメリット
現行の法制度では、もしMUFGコインで決済した場合、他の仮想通貨と同様に年末に確定申告しなければなりません。
MUFGコインは「1コイン=約1円」と価格が調整されますが、もし最初に1円で取得した個人が「1コイン=1.1円」になっている時に利用した場合、利益が生じるためです。
給与所得者は、MUFGコインによる決済関連での所得が20万円を超えていなくても、他の所得も含めて20万円を超えていれば確定申告をする必要があります。
確定申告をする手間が、MUFGコイン利用・普及の障害となる可能性があります。
MUFG側のデメリット
MUFGの2017年度決算説明会の資料によると、MUFGは連結ベースで国内外への送金・ATM手数料等により約2,344億円の収益を得ています。
仮想通貨を導入して送金手数料を大幅に引き下げると、これまでMUFGが得ていた手数料収益が大幅に減少します。
「仮想通貨事業への先行投資」という側面はあるものの、MUFGコインの導入は、短期的にMUFGの収益低下をもたらす可能性が高いと思われます。
MUFGコイン導入の目的は?
画像引用元: https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/data/rel180214a6.pdfhttps://www.mufg.jp/ir/presentation/backnumber/pdf/slides170911.pdf
MUFGが、巨額の手数料収益を捨ててまでMUFGコインを導入する目的は、「利用者のデータを獲得し、新たなビジネスを展開するため」だと思われます。
手数料収益の減少は確かに痛いですが、2017年度決算説明会の資料を見ると、個人分野の手数料収益は約284億円とそれほど多くありません。
それならば、早い段階でMUFGコインに移行し、手数料収益と引き換えに利用者のデータを獲得し、そのデータをもとに新たなビジネスを創出しようと考えているのではないでしょうか。
また法人分野においても、決済手数料を減少させる代わりにMUFGコインの決済システムを利用してもらえば、企業向け決済事業を独占し、新たなファイナンス取引につなげることが期待できます。
MUFGコインと「Jコイン」の違い
画像引用元: https://www.nikkei.com/article/DGXKZO2123155017092017MM8000/
「Jコイン」とは、みずほフィナンシャルグループ、ゆうちょ銀行、そして複数の地方銀行が共同で開発している仮想通貨です。
2020年の発行を目指し、現在も開発が進められています。
Jコインは、個人間の送金にかかる手数料は無料で、中国の電子マネー「アリペイ(alipay)」と同じようにスマホアプリを使ってQRコードにより決済を行うことができます。
みずほフィナンシャルグループは、将来的にアリペイと接続することで、インバウンドの需要を取り込む考えを示しています。
JコインとMUFGコインは非常によく似ていますが、以下の点で違いがあります。
Jコインは「1コイン=1円」に固定
MUFGコインは「1コイン=約1円」に「価格が調整される」のに対し、Jコインは「1コイン=1円」に「固定される」のが特徴です。
MUFGコインが「1コイン=1円」に固定しない理由には、資金決済法が関係しています。
「1コイン=1円」に固定すると、資金決済法上では「電子マネー」と定義されるため、送金の上限が100万円に制限されてしまい、個人の高額送金や企業間での送金には使えなくなってしまいます。
そのため、MUFGコインは「電子マネーではなく仮想通貨」として扱われることを目指しています。
一方、Jコインも、運営会社を「電子マネーを扱う事業会社」としてではなく「銀行」とし、「電子マネーではなく通貨建て資産」とすることも検討されています。
ただしその場合、金融庁に銀行として登録されるまでに相応の時間がかかってしまうというデメリットがあります。
MUFGは独自の取引所開設を目指す方針
「1コイン=1円」に固定すると、法的に仮想通貨と認められないため、MUFGコインは価格を対円で変動する仕組みにしています。
しかし、価格変動が激しくなれば決済手段として利用しにくくなってしまうため、MUFGは新たな取引所を開設し、取引を利用者とMUFGの間だけにとどめることを検討しています。
すでにMUFGは、2018年度内に国内銀行初となる仮想通貨取引所を開設し、MUFGコインを発行することを金融庁に通告しています。
傘下の三菱UFJ銀行は、2016年7月に米国の大手仮想通貨取引所コインベースとの資本・業務提携を発表しており、取引所開設の計画は着々と進んでいるようです。
ただし、仮想通貨取引所を開設するためには金融庁への登録が義務付けられており、取引所開設のハードルは決して低くありません。
- MUFGコインは「1コイン=約1円」に価格が調整される
- Jコインは「1コイン=1円」に価格が固定される
- MUFGコインは「電子マネーではなく仮想通貨」を目指す
- Jコインは「電子マネーではなく通貨建て資産」を目指す
MUFGコインとは?のまとめ
MUFGコインとは、MUFGがブロックチェーン技術を活用して開発している仮想通貨です。
「1コイン=1円」と価格が調整されるのが特徴で、毎秒100万件以上の「高速決済システム」を備えています。
MUFGコインを利用すれば、スマートフォンから簡単に支払い・送金ができるようになります。
MUFGでは、利便性を考慮してMUFGコインを「電子マネーではなく仮想通貨」とすることを目指していますが、価格変動が激しくなれば決済手段として利用しにくくなる懸念があります。
そこで、MUFGは独自の取引所開設を開設し、取引を利用者とMUFGの間だけにとどめることを検討しています。
日本では、MUFGだけでなく、みずほ・ゆうちょ・地銀の連合による「Jコイン」の発行も予定されており、海外の仮想通貨取引所も続々と日本への参入を表明しています。
仮想通貨やブロックチェーンの登場によって銀行の存在意義が問われるなか、MUFGが生き残りをかけて開発を進めるMUFGコインの動向に、今後も引き続き注目です。