やさしい仮想通貨の始め方を解説

元日銀 山口省蔵氏に聞く「ビットコイン・暗号資産とは一体何だったのか」

みなさん、こんにちは。

昨年は、世界的なバブルとも言える程のセンセーショナルな値動きを見せた仮想通貨ですが、2019年は、これまでと比べると安定した相場となり、冷静な見方をする人も増えてきました。

一方で、SEC(米証券取引委員会)がビットコインETFの審査を本格化させたり、フェイスブックのLibraのような企業の発行するステーブルコインの規制に関する議論が話題を呼ぶなど、より健全な市場環境の整備に進展が見られた年でもありました。

今後、仮想通貨(暗号資産)ではどのような法整備が進み、どのような市場が形成されていくのでしょうか。今回は、元日本銀行職員で、金融経営研究所代表の山口省蔵氏に、仮想通貨(暗号資産)の持つインパクトや、資産として見た時のビットコインの評価などについて語って頂きました。

元日本銀行・金融高度化センター副センター長 山口省蔵さんプロフィール

 

 

元日本銀行・金融高度化センター副センター長 山口省蔵

1987年、日本銀行入行。主に金融機関の考査(立ち入り調査)、モニタリング部署を経験。

2011年、金融機関の機能向上を支援する「金融高度化センター」に企画グループ長として着任。2013年、金融高度化センター副センター長に就任。金融高度化センターでは、「商流ファイナンス」、「企業評価の高度化」、「PFI等の公民連携(PPP)」、「創業・事業再生・事業承継支援」、「金融機関による地域プロジェクト支援」、「ITを活用した金融の高度化」等の推進に従事。2018年8月、日本銀行を退職。同9月、金融機関向けコンサルティング会社である株式会社金融経営研究所を設立、所長に就任。「熱い金融マン協会」を運営。

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そもそもビットコイン(暗号資産)とは何だったのか

Q.ビットコインについて初めて知ったのはいつでしょうか?

個人的にビットコインの存在を認識するようになったのは、2014年に起きたマウントゴックスの事件の頃からです。

当時は「何だか危ないものだな」程度の認識でしたが、その後、私が所属していた日本銀行の金融高度化センターで、2014年から「ITを活用した金融の高度化」をテーマに連続ワークショップを開催されるようになりました。

ワークショップを続けていく中で、ブロックチェーン技術を含めたフィンテックの動向も注視するようになったので、ビットコインについても多少意識するようになりました。

日本銀行も暗号資産の活用を模索した結果

Q.日本銀行内ではどのような議論がおこなわれていたのですか?

日本銀行金融高度化センターは、金融機関の機能向上を支援する目的で設立された組織です。金融高度化センターでは、リスク管理、融資手法、創業支援、事業再生支援等の様々な分野での高度化支援を展開していました。

2014年に、金融とITがクロスオーバーする領域に詳しい岩下直行氏がセンター長に就任した時から、「ITを活用した金融の高度化」をテーマの一つに加えました。ちょうどその頃から、欧米では、フィンテックという言葉がバズワードとなってきました。

2015年頃から、欧米の中央銀行もフィンテックへの対応を意識し始めましたし、日本国内でもフィンテックという言葉が流行り始めましたね。

そのため、2015年頃から、フィンテックをテーマとした中央銀行間の国際会議も増えてきたのですが、ビットコインというものが実際に取引されていることを受けて、フィンテックの一分野として、ブロックチェーン技術についても議論されるようになったのです。

当時から、日銀を含めた各国の中央銀行では、ビットコインというものが一部で貨幣的な使われ方もされていることをみて、ブロックチェーンを含めた分散型台帳技術について、自分たちも将来その技術を使う可能性を含め勉強しておこうという認識がありました。

2016年4月に日銀内にフィンテックセンターというものが設立されます。そして、同年12月に「分散型台帳技術に関する欧州中央銀行との共同調査」が開始されることが示されました。

また、2017年の12月には国内の有識者を招いて5回にわたって行われていた「フィンテック勉強会」の総括討議の内容が公表されています。

この勉強会は、名称こそフィンテックというものの、中身は分散型台帳技術に関する議論がメインとなっており、ブロックチェーン技術等のイノベーションについて、コンセンサス・アルゴリズムについて、仮想通貨の法的側面の検討、情報セキュリティ面での分散型・集中型ネットワークの違いなどについて検討されました。

これらの議事録は日銀内のホームページで公開されているので、詳細はそれを参照してもらいたいです。

フィンテックセンターはこれらの調査・勉強会以外にもフィンテックフォーラムという外向けのイベントも行っており、2018年2月には「ブロックチェーン・分散型台帳技術(DLT)の将来」というフォーラムを開催しています。

フォーラムでは、ビットコイン等の暗号資産の問題そのものに焦点を合わせるのではなく、ブロックチェーン等の技術を研究し、どういった分野で活用できるか、メリット・デメリット、導入した時に起こりうる問題などを整理するといったアプローチでした。

世間で使われている暗号資産に関してどのように規制をかけるのかといったことは、金融庁の所轄であるので、中央銀行としては、自分達での活用可能性を含め、根底にある技術によりフォーカスしていたというのが私の印象です。

参考 2019年6月4日

Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第3フェーズ)(:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2019/data/rel190604a4.pdf

ビットコインにも、信頼できる第三者が必要なのではないか

Q.ビットコインには政治的なコンセプトも含んでおり、中央銀行を否定するような考え方もありますが、山口さんはビットコインに関してどのようにお考えでしょうか?

これは個人的な意見ですが、ビットコインに関しては、台帳を分散化されたネットワークで管理することや、透明性が担保され、互いに監視しあうという仕組みがあることにはメリットがあると感じますし、実際に、ビットコインがすでに何年も稼働しており、実際に多くの人が取引しているということには技術的なインパクトを感じました。

ただ、資産として持つという選択肢はあっても、決済手段としては、あまり機能していないのが現状です。

また、社会の大きなスキームがひっくり変えるような革命であるかと言われると、正直なところ議論の飛躍を感じます。

ビットコインにそのようなイデオロギーが含まれていることは知っていますし、それを否定するつもりもありませんが、現状を見ると、分散型台帳技術が素晴らしいというだけで、世界に革命を起こすような技術になるのかと言われれば、そう簡単にはいかないだろうと感じます。

例えば、電気自動車を考えた時、それが広く人々の生活に浸透するためには、充電ステーションや、修理やサポート体制整備など、コアの技術だけでなく周辺インフラの整備も必要になります。

ビットコインも同様で、中核となる技術に素晴らしいものがあるからといっても、それがすぐに世の中で便利に使われるかは別問題です。現状では、法定通貨なしで生活するには不便ですし、暗号資産の取引所は一民間企業が運営しており、分散化されているわけではなく、たびたび事件が起きています。

これらの周辺インフラの整備などの環境も含めて信頼できるものにならないと、人々が安心して使えるようにはなりません。

また、暗号資産の分散化の中身についてですが、透明性や、ルールが改変されないということがどこまで担保されるのかという話もあります。

これまでに暗号通貨では、ハードフォークやリプレイアタックといった信頼性が揺らぐようなことも起きていますし、コミュニティ内の政治的な力学もネットワークの維持に影響を与えるとなると、本当に安全なのか、そもそも真に分散化されているのかといった疑問も生じます。

はたして分散化すれば、何でも世の中うまく回るのかということに関しても、個人的には疑問を持っています。民主主義においても選挙管理委員会は信頼できる第三者に委任するわけですし、広くインフラを見れば、信用できる第三者が必要な時がありますから。

日銀をはじめ、各国の中央銀行や金融規制当局で共有されている認識

Q.決済として機能しないと考えるのは何故でしょうか?

価格がこれだけ不安定だと、商品の流通を媒介する決済手段としては便利ではありません。

実際に現時点では、決済手段としての使われ方は限定的であり、投資対象としての見方の方が主流だと思います。

先日、日本銀行の雨宮副総裁が「CBDC(中央銀行によるデジタル通貨)」に関して前向きな発言をしたことが話題になりましたが、どのような背景があっての発言だったのでしょうか?

雨宮副総裁の発言は、日銀としてビットコインのようなものを発行することを検討しているわけではなく、現金に代替する中央銀行によるデジタル通貨の研究をしているという発言だったと思います。

デジタル通貨については、直接的に、ブロックチェーン等の分散型台帳技術と結びつくものではありません。

今、普及し始めている○○ペイといった電子マネーは、分散型台帳技術を使っているわけではありません。そのようなものを使わずとも、決済の電子化は可能です。

それから、現在、中央銀行や金融規制当局では、仮想通貨という言葉は使いません。暗号資産という呼び方をしています。

現在、「資金決済に関する法律」において、暗号資産が定義されています。ビットコインなどのこれまで仮想通貨と呼ばれてきたものは、資産であっても、通貨(法律の定めによって流通する貨幣)ではないと認識されています。

通貨でないならば、不必要に厳しく規制する必要はありませんし、逆に、通貨であるならば事業者が勝手に発行してビジネスを展開することは許されません。

ビットコインなどの仮想通貨と呼ばれていたものは、将来的には商品やサービスの流通を媒介する通貨を代替し得るかもしれないけれど、「通貨ではない」ということは各国の中央銀行や金融規制当局で共有されている認識です。

ビットコインは単なるデータ、利用価値はない。

Q.ビットコインをアセットとしてみた場合について、どのように考えていらっしゃいますか?

アセット(資産)としての魅力についてですが、商品ならば利用価値がありますが、ビットコインの場合、単なるデータなので、そのもの自体には利用価値はありません。

ここまで急激に価格が上がった過程を見ると、投機の対象としては正解だったかもしれませんが、長期的な資産として見た時には、個人的には正直、分かりません。

例えば、株式や債券などの金融資産はフローの利益を生みます。

株式には配当があり、債券には利息があります。これらがフローの利益を生む背景には、それらを発行する企業で働いている人達が、事業を通じて、社会に価値を提供しているからです。株式投資などは、その事業の魅力、成長性などを先取りして投資しているという意味合いを持っています。

一方で、ビットコインの場合は、そのようなフローの利益を生まないので、完全に思惑だけの勝負になります。その意味では、ビットコインは、FX投資と同じですね。誰かが得をしていたら、その裏で同額損している人がいるというゼロサムゲームです。

FXのようにゼロサムゲームの中で勝てる自信がある人にとっては良いかもしれませんが、将来的にずっと価値が上がり続けるのかと言われると、フローとしての価値を生まない資産という点において、投資対象としては株式や債券ほどの確実性はありません。

長期で見た場合は、このように考えていますが、一方で、実際にこれまで暗号資産の価格は上がってきたという現実があります。それには様々な要因があると思いますが、そのひとつに世界的な金融緩和が挙げられます。

世界的な金融緩和によって、株式も債券も価格が上昇し、利回りが落ちたことで、暗号資産が投資対象として注目されるようになったという背景があります。

そして、世界的な金融緩和は今もなお続けられており、弱まる兆候はないので、行き場のないマネーがビットコインなどの暗号資産に一部流入するという循環は、まだしばらくは続くだろうとは感じています。

そのため、短期的なポートフォリオの一部としてビットコインを考えることには、意味があると思います。 

ビットコインは各国の中央銀行から不信感を買われている

Q.供給量が限られているという点で金と比較されるビットコインですが、それに関してどのようにお考えでしょうか?

金は商品として利用されることもありますが、「今はドルで持つよりも金かな」といったように、投資対象としても取引されています。

また、各国の中央銀行によりコントロールされている法定通貨に対する不信感から買われることもありますね。

その意味では、ビットコインも供給量が制限されていて、人為的な価格のコントロールがされないという点で金と似ている側面があります。

特に自国の法定通貨の信用レベルが低い国の人にとっては、選択肢としてビットコインなどの暗号資産があることは価値があることだと思います。

しかし、暗号資産をポートフォリオの一部に組み込むという考え方はありかもしれない

Q.景気悪化や株式市場の下落に対するヘッジとして暗号資産は検討し得るのでしょうか?

株式市場の下落時のリスクオフとして債券に資金が流れることは、一般的に知られています。

景気悪化のリスクが高まると、中央銀行は金利を引き下げるので、債券価格が上がるという動きには、はっきりとしたロジックがありますが、暗号資産に関しては、同じようなロジックを当てはめられるのかと言われれば、少し違うと思います。

金利の引き下げとビットコインの価格上昇との間で、明確な因果関係があるとは言えませんし、債券は株よりも安全な資産としてみなされていますが、はたして、暗号資産は株よりも本当に安全資産と言えるでしょうか。

少なくとも、そのような認識が投資家の間で定まっているとは言えませんし、リスクオフとして暗号資産を買うというよりも、むしろ、暗号資産はリスクテイカーが買うものというのが一般的な見方です。逆に、リスクオフとして暗号資産を売る動きが出てくる可能性もあり得ます。

株価や債券価格に対して、暗号資産の価格がどのような相関をするのかということに関しては、よく分かりませんが、おそらく株式や債券とはまた別の価格変動をする資産だと思います。

ポートフォリオでみれば、自分の持っている資産と価格の相関が低い資産を入れると安定性が増すので、今後生き残っていくであろう暗号資産をポートフォリオの一部に組み込むという考え方はありなのかも知れません。